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しぐれ茶屋おりくの部屋

しぐれ茶屋おりくの部屋

母に捧げる詩

     母さんに旅発たれて 悲しくない訳はありません

      でも 二つだけ これで良かったと思っていることがあります

      苦しむことなく 老醜を晒すことなく逝かれたこと

      そして 死後のお顔がね 昔の母さんの尊顔に戻られたこと

      棺(ヒツギ)の窓から 穏やかなお顔を見て 誇らしく思いました


      父さんがサンタ・クロスで 皆さんに夢を贈ることが出来たのも

      貴女の弛(タユ)まざる 辛抱心があったからだもんね

      我慢という言葉は 実に貴女にぴったりのことばでした

      九州から大阪へ戻って来たとき

      幼い妹を含め四人の子供と 大きな革鞄と大風呂敷

      肩から手が千切れるほど重い革かばんの中身は

      父さんが大切にしていた古手紙だったとは 驚きでしたよね  

      そんな扱いにも愚痴を零さず

      貴女はずうっと 父さんを支えて来ましたね

      ほんとうに ご苦労さんでした


      生活が楽になり始めたのは この長岡に移ってからかな

      子供に食べさせることだけに専念し

      ご自分は着のみ着のまま

      父さんが癇癪を起こしたときも

      じっと堪えて居ましたね


      私達こどもが独立した頃から やっと

      父さんと連れ立って 宝塚や京料理を楽しむようになれましたね


      父さんが逝ってから

      こどもがいろいろ貴女に尽くしましたが

      父さんの居ない独居生活には

      生き甲斐など半減してしまったようですね


      亡くなる前日は あんなに元気だったのに

      骸と化したあの日  

      こどもが駆けつけるまで ずっと独りだったんだね

      ごめんね ごめんね もう一晩泊まれば良かったのに

      トイレの便器に座ったまま 貴女は眠るように固まっていらした


      死の恐怖を 死の苦しみを ほとんど知らずに

      鬼籍へ旅立って逝かれたのが せめての救いです

      
      形ある貴女には もう逢えないけれど

      父さん同様 私達の心の中に居て下さるから 大丈夫

      いっぱいお話しようね

      一緒に美味しいもの 食べましょうね

      だから さようならは言いません


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